自筆証書遺言書保管制度開始から1年

相続・贈与

2020年7月10日から開始された自筆証書遺言書保管制度における初年度(2020年7月から2021年6月)の遺言書保管申請数は2万849件だったということです。

自筆証書遺言書保管制度とは

この制度は、簡単に言うと、ご自身で作成した遺言書(自筆証書遺言書)を法務局が形式をチェックしてくれた上で、保管してくれるというものです。有料ですが、遺言書1通につき3,900円。保管期間は、遺言者の死亡後50年間、画像データは死亡後150年間です。

この保管制度を利用すれば、自筆証書遺言書であっても、相続人がその存在や保管場所を知らずに、遺言書を発見することができなかったりすることや一部の相続人等によって遺言書の改ざんが行われるということを防ぐことができます。

この保管制度の最終的な目的は、遺言者が死亡した際に、その相続人等に遺言書の内容を知ってもらうようにすることですので、死亡後の通知についても、一定の要件のもと関係相続人等全員に通知が届くような仕組みにもなっています。

遺言書をめぐる騒動

自筆証書遺言書に関しては、約20年前の京都の老舗鞄会社の「一澤帆布」をめぐる騒動が有名です。3代目が亡くなった後に遺言書が二つ出てきたことにより、兄弟で争われた騒動です。会社の株式が絡んだ内容だったため、その経営権をめぐり、争いは長く続きました。ここではその経緯や内容を詳細には述べませんが、ご興味がある方は、こちらをご覧ください。

ここまでの争いにはならないものの、相続は、財産を相続人間で分けるという作業が必要なので、どうしてもスムーズにいかないことが多いことは否めません。そういった「争族」を回避するために、遺言書を作成しましょうと言われているのですが、その遺言書が新たな火種になったしまうということもあるわけです。

遺言者の意思を尊重するために

上記のような遺言書を巡る相続人間の争いを防ぐためにこの自筆証書遺言書制度を利用することは、もちろん有効であると思いますが、何よりもそのことによって、遺言者の意思が尊重されるということこそが、この保管制度の真髄なのではないかと思います。

初年度の申請件数の2万超という数は、情報がまだ行き渡っていないことやちょうどコロナの状況にあったことを考慮すると、本来の需要に比べるとまだまだ少ないのではないかと想像されます。ちなみに令和2年(1月から12月)の公正証書遺言書の作成件数は、9万7700件だったそうです。