本の紹介「わたしからはじまる 悲しみを物語るということ」

グリーフケア

入江杏さん作「わたしからはじまる 悲しみをものがたるということ」を読みました。入江杏さんは、2000年に起こった世田谷一家殺人事件のご遺族です。以来、グリーフそしてグリーフケアと向き合っていらっしゃいます。この本は、入江杏さんの最新のご著書です。

悲しみの共通の水脈

入江さんは、事件被害者のご遺族として、事件にかんすることや遺族としてのグリーフについて、ひたすら前を向いて世に訴えてきたわけではありません。事件の第一発見者であるお母様の強いご意向もあり、事件以来、何年も沈黙を守り続けていらっしゃいました。被害者の一人である姪御さんが残した一枚の絵に導かれ、入江さんは語り始めます。グリーフを基盤にしながら語り始めた入江さんは、様々な葛藤やためらい等を経ながら、被害者遺族としてだけではないご自身の物語も紡いでいらっしゃいました。そして「悲しみの共通の水脈」の存在に気づきます。そんな入江さんが「悲しみを物語るということ」を丁寧に描いたのが今回のご著書です。

グリーフの先にある小さな光

読み終わって、入江さんご自身が語りながら歩んでこられた中に光を感じました。真っ暗なグリーフに包まれた世界で、佇みながら、もがきながら、そして恐る恐る1歩ずつ踏み出した人が見つけた小さな光。そして、これからも迷いながらも、静かにその光を頼りに進んでいくのであろうと思います。

表紙の絵は阿部海太さん

表紙と挿絵を担当なさったのが阿部海太さん。柔らかな色が溶け合うような表紙の絵がとても印象的です。表紙の絵が、この本を柔らかく、暖かく、見守るように包んでいます。

今回2回続けて、この本を読みましたが、今後も何回も手に取る本になることでしょう。